整容動作は社会との繋がりをつくる!「問題と対応方法について」
目次
整容動作とは
整容動作とは、自身を清潔に保ち周囲の人を不快にさせないように身なりを整えることを指します。身なりを整えるということは、自身を周囲の人々見せたり、逆に見られたりするなど、心理的・社会的な意味合いも持つことにも繋がっていきます。
食事や排泄など、必須の日常生活活動(以下ADL)と比較すると優先度を低く見られがちです。しかし、上段にて述べたように整容動作とは、「社会との繋がり」をつくる動作となります。
整容動作が不十分になるということは、「社会との繋がり」を失うことになります。結果、精神的にも身体的にも大きなリスクを背負うことになります。
また、整容動作は性別、年齢、文化などにより個人差(個別性)が特に大きいADLとなります。病前の生活がどの様なものだったのか?十分に配慮しながら関わる必要があります。
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整容動作の分類(手順と必要能力)
洗面
- 洗面所までの移動と姿勢保持⇒「歩行・車椅子自走」「立位・車椅子座位保持」
- 蛇口(水栓)を操作して水を出す⇒「鷲掴み・手関節尺屈」※レバー式「前腕中間位にて撓屈など」※センサー式「なし」
- 前方に両手(片麻痺などの場合は片手)を伸ばし水をすくう⇒「手関節回外・肘関節伸展・肩関節屈曲」
- 身体を前方に傾ける⇒「体幹前屈」
- すくった水で顔を洗う⇒「手関節回外/背屈・肘関節屈曲」
- 蛇口(水栓)を操作して水を止める⇒「鷲掴み・手関節撓屈」
- 洗顔料(石鹸)を手のひらに出す⇒「把持(洗顔料保持・絞り出し)・つまみ(キャップ)」
- 洗顔料を泡立てて顔を洗う⇒「両手関節中間背屈(合掌)・肘関節屈曲/伸展」
- 2~6の動作
- タオルで顔を拭く⇒「把持(タオル)・手関節回外/背屈・肘関節屈曲」
歯磨き
- 洗面所までの移動と姿勢保持⇒「歩行・車椅子自走」「立位・車椅子座位保持」
- 歯ブラシの準備⇒「母指の側副つまみ」
- 蛇口(水栓)を操作して水を出す⇒「鷲掴み・手関節尺屈」※レバー式「手関節中間位にて撓屈など」※センサー式「なし」
- 歯ブラシを水に濡らす⇒「母指の側副つまみ・肘関節伸展・肩関節屈曲」
- 蛇口(水栓)を操作して水を止める⇒「鷲掴み・手関節撓屈」
- 歯ブラシに歯磨き粉を付ける⇒「把持(歯磨き粉保持・絞り出し)・つまみ(キャップ)」
- 歯磨き⇒「母指の側副つまみ・肘関節屈曲/伸展・手関節の微妙なコントロール」
- 蛇口(水栓)を操作して水を出す⇒「鷲掴み・手関節尺屈」
- コップに水を入れる⇒「撓屈位での手関節背屈・手指屈曲・肘関節屈曲/伸展・手関節回内」
- 口をゆすぐ⇒「口腔閉鎖」
- タオルで口を拭く⇒「把持(タオル)・手関節回外/背屈・肘関節屈曲」
髭剃り(電気シェーバー)
- 洗面所までの移動と姿勢保持⇒「歩行・車椅子自走」「立位・車椅子座位保持」
- 電気シェーバーの準備⇒「母指の対立つまみ・手指屈曲」
- スイッチ操作⇒「母指MP/IP関節伸展」
- 髭剃り⇒「母指の対立つまみ・手指屈曲」
- 髭剃りカスの清掃⇒「母指の対立つまみ」
整髪
- 洗面所までの移動と姿勢保持⇒「歩行・車椅子自走」「立位・車椅子座位保持」
- 整髪料の準備と使用⇒ワックス「両手の指先つまみ」 ジェル「把持(歯磨き粉保持・絞り出し)・つまみ(キャップ)」 スプレー「母指の対立つまみ・手指屈曲」※示指はMP関節(第1関節)伸展位でのIP関節(第2・3関節)屈曲
- 整髪⇒「手指の微妙なコントロール・肩関節/肘関節は屈曲90度以上」
- ドライヤーの使用⇒「母指の対立つまみ・手指屈曲」「手指の微妙なコントロール・肩関節/肘関節は屈曲90度以上」
- クシの使用⇒「母指の側副つまみ・手指屈曲」
化粧
- 洗面所までの移動と姿勢保持⇒「歩行・車椅子自走」「立位・車椅子座位保持」
- 下地・ファンデーション・マスカラ・眉を整える・口紅等⇒「母指の側副つまみ・手指屈曲」※基本的には小さな道具を使用して顔にアプローチする能力が求められる
- 化粧落とし・スキンケア⇒※洗面と同様
爪切り
- 切られる側⇒「手関節回内・手指伸展」
- 爪切り⇒「前腕中間位・手関節尺屈・母指側副つまみ」
整容動作別の問題点と対応方法
洗面
入院生活などを送っている方などの場合、生活のリズムが単調となりがちです。1日のメリハリをつけるうえで、洗面は重要な動作となります。
問題点
通常の洗面とは、洗面所にて「立位・閉眼・体幹前傾」と高度なバランス機能を求められる(バランスを崩しやすい)動作にて行っています。また、工程数が多い動作(1~10)でもあります。
つまり、何等かの運動(精神)機能に障害があった場合は、途端に動作の実施が困難となります。その場合は、障害の程度に合わせた環境調整が必要となります。
古い蛇口(水栓)タイプに多い「つまみ栓」は、相応の握力や巧緻性が求められることや、難易度が上がりがちです。
対応方法
ベッド上で生活するなど障害の程度が思い場合は、おしぼりや温タオルなどで顔を拭くだけでも効果的です。座位保持が可能な場合は、洗面器などにお湯を入れて行うこともできます。
洗面所で行う場合、「問題点」でも述べたようにバランスを崩しやすい動作となります。洗面台の両側に手すりなどを設置すると良いでしょう。
また、無理をせずに椅子や車椅子にて利用することで安全に行うことができます。その場合、下向き鏡の設置や洗面台下のスペースを空けるなどの検討が必要となります。
蛇口(水栓)に関しては、レバー式やセンサー式に変更することで楽に使用することができます。レバー式やセンサー式の場合は、蛇口(水栓)を握らなくても操作が可能(肘などでも)な為、動作の効率も向上します。
レバー式などへの改修が困難な場合には、「つまみ水栓」から簡単(お手頃な値段)に後付け可能な商品などもあるので検討してみても良いかもしれません。
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歯磨き
歯磨きは口腔内の清潔を保つことで、虫歯や歯槽膿漏などを予防することを目的としています。また、口臭予防など他者とのコミュニケーションにも欠かせないものでもあります。加えて、誤嚥性肺炎の予防など「生命」にも関わる重要な役割をも担っています。
問題点
歯ブラシのような細い物を把持しながら、細かなブラッシングを数分間行うことは非常に細かな動作(巧緻性)を要します。その為、片麻痺など上肢(手指)の運動機能障害がある場合は実施が困難となります。
また、工程数の多い動作(1~11)でもある為、失行症など認知機能障害がある場合も動作の実施が困難となります。
歯磨きは口腔内に異物(歯ブラシ)を入れることになります。誤って嘔吐反射などを誘発してしまうと、食後嘔吐による窒息など重大な事故に繋がる恐れもあります。
対応方法
細かなブラッシングが難しい場合は電動歯ブラシやスポンジブラシの使用がオススメです。スポンジブラシに関しては、研磨力は劣るものの、ブラシ位置を気にしなくて良い(ブラシの面を常に歯にあてないといけない)というメリットがあります。
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また、歯ブラシの把持が難しい場合は「万能カフ」の使用を検討します。
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ブラッシングが不十分な場合には、液体歯磨きの利用や口をゆすぐだけでも、一定の効果が見込まれる為積極的に検討していきましょう。
髭剃り(電気シェーバー)
男性の場合は、基本的には毎日行う必要があり、身だしなみを整えるうえでも欠かせない動作となります。髭剃りを行うには、カミソリを使用する方法と電気シェーバーを使用する方法に分けられます。安全性や動作工程を減らす為には電気シェーバーの使用がオススメです。
問題点
電気シェーバーはある程度の重みがあるうえ(洗面所の中では)、小さなスイッチの操作や常時肌面に合わせての操作などが必要となります。その為、手指の巧緻性、握力、上肢コントロールなどに障害があると動作が困難となります。
また、電気シェーバーの場合、刃の清掃(ひげのそりカス)や充電器への接続など、後始末なども必要となります。
対応方法
電気シェーバーの把持が難しい場合は、万能カフの利用を検討しましょう。ただし、ある程度の圧力で肌に電気シェーバーをあてる必要がある為、力負けする場合もあります。その場合は、手関節装具(固さのある物)との併用も検討します。
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少々値段は張りますが、「自動洗浄機能付き」の電気シェーバーであれば置くだけで、洗浄や充電が可能となります。高機能な電気シェーバーであれば、肌への負担も小さくなるので検討してみても良いでしょう。
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整髪
特に髪が短い場合を除いて、1日の始まりに整髪を行わない人は少ないのではないでしょうか?整髪を行うことは、社会とのコミュニケーションを図るうえで重要な動作となります。
問題点
整髪では、整髪剤を使用するケースが多いと思われます。整髪剤の種類もワックス、スプレー、ジェル、液体など様々なタイプがあり、使用する為の能力(上肢・手指)も若干の違いが出てきます。
加えて、ドライヤー、クシ、髪留め(ゴム)など様々な道具を使用する為、道具に応じた能力(運動・認知機能)が求められます。
上方へのリーチ動作(手を伸ばす)では、ADL上でも特に遠くまで(頭頂部・後頭部)伸ばしての上肢・道具操作能力が求められる為、難易度が高くなる動作でもあります。
対応方法
整髪剤に関しては、長年の使用しているケースが多い為、どの様なタイプを使用していたのか確認を行ったうえで必要な能力を検討する必要があります。
ドライヤーは重量もあり支え続けることが難しいケースもあります。その場合は、ドライヤーを洗面台などに固定することで両手が自由となり整髪が容易となります。
上方へのリーチが難しい場合は、「長柄ブラシ」などリーチ動作を補うような道具使用の検討をオススメします。
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化粧
普段は化粧を行っていなかった施設入所の女性が、あるイベントで化粧を行うことで、表情がイキイキとしたものに変わり活動的になった。というケースがあります。特に女性にとっては、心理的安心感や自尊心を高める重要な動作であることが分かります。
問題点
化粧用品に関しては、種類や使用方法を含めて非常に多種多様な物が出回っています。特に男性側が援助者の場合、そういった知識が不足していたり、「女性にとっての重要性」の認識が不十分であることも多い為、注意が必要です。
化粧は左右反対に映る鏡を見ながら、左右対称になるように行う必要があり、非常に高い能力が求められます。上肢の巧緻な運動調節だけではなく、高度な認知機能も求められます。
体調の頻回なチェックが必要な場合は、顔色の確認が必要なケースもあります。その場合は、化粧が顔色チェックの妨げになることもある為、注意が必要です。
対応方法
過去にどういった化粧品を使用していたのか?もしくは、どういった化粧品を使用したいのか?十分に確認したうえで、必要な能力を検討する必要があります。
顔まで手が届かない場合は、「リーチャー」の使用がオススメです。視野・視力障害がある場合などは、拡大鏡などを使用することで可能になる場合もあります。
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化粧販売員の方など専門家に相談するのも手かもしれません。日々様々な新商品が発売されるなか、それらの情報を私達が全て把握することは困難です。今現在困っていること、希望することなどを伝えると効果的なアドバイスをもらうことができるかもしれません。
爪切り
爪切りは身だしなみの観点だけではなく、爪が皮膚を傷つけるリスクや、伸びた爪の間に細菌などが増えてしまうことを防ぐ為にも重要な動作となります。また、鋭利な刃物を使用する為、自身を傷つけるリスクなどに留意する必要があります。
問題点
爪を切られる側の上肢では、一定の姿勢を保つことが求められます。具体的には「手を広げた状態で手の平を目の前の机におけること」です(手関節回内・手指伸展・肘関節伸展)。
爪切りを持つ側も細かな操作が求められます。特に片麻痺など、片側の上肢が上手く使えない場合は通常の爪切りを使用することは困難となります。
対応方法
片麻痺など片側の上肢が上手く使えない場合は、「片手用爪切り」などの使用を検討します。それでも上手く出来ない場合は、効率は落ちますが、「爪やすり」などを使用すれば安全に行うことができます。
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